徒歩にて

目の前が歪んだ

足が踊った

真っ直ぐ進もうとする体が

脳より先に恐怖を察知して柱にもたれかかった

後ろで悲鳴があがる

立ち止まり座り込みする人の姿が

次々と目に入る

頭の中が目の前の景色から瞬間移動し

未来に闇がかかるような映像が浮かぶ

この後やろうとしてたことが

全部ぶっ飛ぶようなイメージ

映像が目の前に戻る

同時に目の上だか奥の方だかが

フル回転する

進むべきか止まるべきか

上がるべきか留まるべきか

360度近く首を回して確認してみる

日本一乗降客数の多い新宿駅の構内が

雑多な人種が無関心のスピードで現れ消える新宿の風景が

みんな同じ人同じ気持ち同じ表情になって

スローモーションのように流れを止めていた

初めての経験だった

でも一瞬で終わった

進むべき上がるべきと判断して

気づいたら自分がエスカレーターを昇っていたから

外に出ると

どいつもこいつも

共有した恐怖が通り過ぎたような顔をしていた

電話する人ビルの上を睨み付ける人怖さを口にする人

ダッシュで通り過ぎる人ホッとしてタバコを吸う人

それぞれの動きと配置は異常だったけど

すでに危機感は過去だった

自分も含めて

帰りは電車も止まり

バス停タクシー乗り場公衆電話

歩道車道駅周辺

どこも見たことのないほどの人だかりで

交通手段が麻痺してたから

とりあえず歩いた

とりあえずのつもりが

結局は自宅までとなった

無事に着いた

部屋は無事じゃなかった

でもオレは無事だった

東京は脆い

東京は怖い

東京は意外と歩ける

東京は危機感が薄い

震源地はもっともっとひどいのに

東京ではもう過去になっている

東京は恐ろしい

オレも

歩いて帰れた幸運に感謝しながら

歩くことさえできない事態に目をつむる

それでは何にもならない

それなのに明日が来ると思っている

明日以降の仕事のことをすでに考えているから

大丈夫だと思いたいから

これはどーゆーことなんだろう

でも今日頭をよぎったことは

忘れないようにしたい

新宿と

その帰り道のことは

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